episode5〜再診後の1日〜

切迫流産といわれ、診察室から出た瞬間。

 

一気にそこはアウェーの世界だった。

ついさっきまで、私も周りの妊婦さんと同じような顔して座ってたはずなのに。

 

いたたまれなかった。

泣いた顔を隠すように俯きながら廊下を歩き、待合室では座っていられず壁に貼られたパンフレットを見る振りをして。

 

そそくさと支払いを済ませて車に乗り込む。

どうやって運転して帰ったのか覚えていない。

 

自宅の駐車場に着き、パパにメールを送る。営業回りをしているため日中は電話に出れないことが多い。

「電話できる?」

 

返信を待たず、かけていた。

パパはつながらず、すぐに母にかける。

 

母の声を聞いた瞬間、堰を切ったようように嗚咽した。

 

「赤ちゃん、あかんかもって…どうしよう…」

「どうしたの?病院?ひろちゃん、大丈夫?」

 

大丈夫じゃなかった。

 

私はどうしてこうなるかもしれないと、考えなかったんだろう。

何を浮かれていたんだろう。

なんで異常を感じられなかったの。

私のお腹にいてるのに。

私しかわかってあげられないのに。

 

母との電話を切り、とにかく家に入ろうと車から出る。

 

渡されたエコー写真には、先生がいう「赤ちゃんの影」がちゃんと写っていた。

6mmくらいやなって先生言ってたなぁ。

 

家に入ってボーッとエコー写真をみているとパパから電話。

 

母に喋った時よりは落ちついていたが、やはり口を開くと涙が溢れてくる。

 

パパは、ビックリした様子だったが、私を落ちつかせるように「まだわからんやん。ちょっとゆっくり休んどき。」

そんなことを話して電話を切ったと思う。

 

そうだ、仕事…。

職場に電話をする。

必死に落ちつけ、落ちつこうと言いきかせる。でもやっぱりダメで、また泣いてしまう。

仕事はしばらく休みをもらうことになる。申し訳ない…でも仕事どころではなかった。

 

買い物袋も投げ出したまま、ソファーに倒れこむ。

寒気がして、気分が悪い。

 

2時間ほどそのままボーッとしていた。

眠ることもできない。

 

母が心配して来てくれた。

でも私の頭を撫でて言ったことに絶句。

「ひろちゃん…それは想像妊娠とかいうことではないの?」

 

マジで⁈ 

今からそこ? そんなとこから話さなあかんの? 笑

 

ちょっととぼけた優しい母のおかげで、今日初めて少し笑った。

 

母は、私と妹を産んだ後に、自然流産している。

妊娠にも気づかないまま、気づいたら大量出血して、病院で妊娠だったことを告げられたと、私の3人目妊娠を話した時に話された。

その話を聞いた時、実は少し不安を感じていた。

でも私は大丈夫!長女の時も次女の時も働きながら元気に産まれてきてくれたもん!っと言い聞かせていた。

 

母も泣きながら「まだ分からないけど、もし今回ダメだったとしてもまだ若いんだから、またきっとできるから大丈夫。」と何回も言っていた。

 

何か食べなさい、と母は私の前に次々に買ってきてくれたものを並べる。

巻き寿司、苺、桜餅。

 

そうだ、買い物袋にお刺身入れたままだったと急に思い出す。

 

母がとっくに片付けてくれていた。

 

お腹が空いて気持ち悪かったのか、苺をひとつ食べるとスーッと甘酸っぱさが体にしみわたった気がした。